万引き-今に始まった犯罪ではない。江戸時代から万引きという言葉はある。なくならずに今、多くの書店が万引きの被害に泣いている。まさに“浜の真砂は尽きるとも万引きに泣く書店は尽きず”である。 |
万引きした少年を警察に知らせ、警官が少年を署に連れて行く途中、逃げ出した少年が電車に引かれて死亡した事件が今年1月に川崎市の古書店で起きたが、警察に知らせたとして店長を非難するおかしな声が寄せられ、これに耐え切れず、店長は6月に店をとじてしまった。その一方で、7月28日には万引きした3人の少年を追いかけた衣料品店主が、車で逃げる犯人を止めようと車にしがみつき、道路脇の電柱に激突して死亡するという事件が起きた。ホームレスを雇って万引きさせるという事件も起きている。また、関東を中心とする1都8県のドラッグストアなどから大量の医薬品や化粧品を万引きしていた少年少女を含む男女計10人が7月24日までに逮捕されるという事件もあった。 |
新古書店の登場で、新刊書店が泣いている。新刊書店から店頭に並んだばかりのコミック本を大量に、それこそ20冊30冊とまとめて万引きし、それを新古書店に売りに行くのである。新古書店は、それを買い取って、新古書店より安くコミック本を売って、お客を集めているのである。新刊書店の中には、コミック本を自分の費用でパック詰めにして店頭に並べているが、その費用がバカにならない。 |
そのため、メーカー段階、つまり出版元にそれをお願いしているが、遅々として進まない。出版元は、パックしては、中が見えないので買わないと主張している。しかし、自分の費用でパック詰めにしている書店では、パック詰めにしても売上げは落ちないと主張し、話がかみ合っていない。つまりは、万引きがへらないどころが、増える一方である。 |
筆者が子どもの頃、家業が本と文房具を売っていたので、よく店番を手伝ったものである。当時(昭和20年代)は、監視カメラもEAS(電子式商品監視システム/万引き防止装置)も防犯ミラーもなかった。万引きを見つけるには「目」しかなかった。そのために、お客さんを視野の片隅にさり気なくいれて、そのくせ神経は尖らせて、万引きされないように気を配ったものである。それでも、たまには万引きされたことがある。しかし、昔は良かった。どこそこの誰々と分かっているので、次からは警戒することができた。知らない(顔を見たこともない)人でも、周りにこういう人だと問えば、その人がどこの家の人か(子供か)はすぐに分かった。 |
ところが今、孤立化、無関心が際立って、どこの誰かということが非常に分からなくなっている。都会では、なおさらである。そのために、万引きしていったのは誰々、ということは昔と比べて、分からなくなってしまっている。昔以上に、万引きに対して気を配らなければいけなくなった。ところが、どうだ。万引きを監視する機械として監視カメラ、EAS、防犯ミラーなどがあるのに、効果的な使い方をしているとは言い難い。設置はしているけれども、使いこなしていない。もったいない話である。 |
万引きに困っている困っていると言う割りに、また、万引き防止を目的に監視カメラやEAS、防犯ミラーを購入するのは、どういう魂胆からだろうか。日本人は、横並びとか物真似が好きだが、セキュリティ対策にもこの傾向が強い。どこそこが監視カメラを入れたから、EASを入れたから、防犯ミラーを入れたからウチでも入れようというわけである。万引きを防ぐため、万引きを監視するためという肝心の目的はどこかに消し飛んでしまっている。 |
多くの書店に設置されている監視カメラでは、万引きをしたかどうかを視認することが出来ない。理由は、広角レンズを使用しているために、万引きをする肝心の手許が良く見えない、モニタリング(モニターでカメラの映像を見ること)していないから、現場を視認することが出来ない、録画すらしていない書店もある。監視カメラの機能が果たせない。正しい使い方を教えている業者は、ごく少ない。 |
EASも似たりよったりである。指導を良く行っている業者もあるが、これは例外と言える。ゲートが万引きを検知してアラームを鳴らしたときに、声掛けしなければいけないが、どういう風に声掛けをするのか教えていない。それだから、声掛けして、逆に居直られた書店では、アラームがならないようにEASの電源を切ってしまっているところもある。これは居直られる心配はないが、万引き天国と化してしまう。なぜなら、万引きした本を持ってゲートを恐る恐る通り抜けたところ、アラームが鳴らなかったらダミーEASか、電源を切っていると知って、次からは堂々と万引きすることになる。しかも、このことを友達などに伝えて、このことが広く伝わり、万引き仲間が集まることになる。防犯ミラーにしても、これに視線を送るのは店員でなく、万引き犯だと言われている。店員の動きを監視するためである。 |
書店が、本当に万引きに困っているのか、こういうことを見聞きすると一瞬、書店が困っているのは本当か?とついつい疑ってしまう。名古屋市68店もの書店を経営している三洋堂書店がある。ここの加藤和裕社長は、万引き被害に業を煮やして、「タグ&パック」という会を作り、賛同者(書店)を集って、出版元に対してコミック本をパック詰めするように、また書籍に防犯タグをソースタギングするように働き掛けている。賛同する書店は83店にも達している。 |
7月29日にここの本店を訪問したが、1F~3Fの天井には4列に並んでドームカメラがずらりと並び、また2Fと3Fにはメーカーの違うEASゲートを設置し、そのうえ従業員通用口と書いたボードをうまく使ってワンウエイ方式をとっている。万引きを防ぐのだという姿勢がはっきりとわかる。日本で一番、万引きを防ぐのだという意志がわかるシステムを導入している書店だといえる。 |
加藤社長が進める「タグ&パック」運動が実を結びつつある。出版文化産業振興財団(JPIC)が動き、「21世紀のコミック作家の著作権を考える会」や横浜市、警察などが協力して、来年1月からの1年間、横浜市を万引き防止モデル地区として、万引き防止対策事業を展開することになった。素晴らしいことである。 |
ウオールマートやターゲットの“毎日安売り”を言葉だけ真似している店舗があるが、ウオールマートやターゲットが万引きや内部不正を防ぐのに、それこそ血の滲むような努力をしていることを、それらの店舗は知っていない。日本では、お客様は神様でドロボー扱いできないと万引きや内部不正を見逃して、自分で経営を苦しくしている。本当に困っているなら、三洋堂書店の加藤社長のように立ち上がるのが普通である。 |
加藤和裕社長は、6月5日に東京で開かれたEAS業界団体の日本EAS機器協議会の設立1周年を記念するシンポジュームで、協議会に望むこととして最後に一言、『石切工に何をしている?と聞いた。一人目は「石を切っている」と答えた。二人目は「建物を建てている」と答えた。三人目は「世界一の聖ピエトロ大聖堂を建立している」と答えた。日本EAS機器協議会は、決して防犯ゲートを売っているのではないと信じる』とスピーチした。EAS各社だけでなく、監視カメラや防犯ミラー、あるいはまたセキュリティ機器を販売している業者は、この言葉を、どのように聞くだろうか。売る側・買う側とも、いま一度胸に手を当てて考えてもらいたい。また三洋堂書店の本店を覗いて見てもらいたいものである。(佐藤 伸) |
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