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万引き防止に向けて全国組織の設立は結構だが

万引き防止に向けて、被害に悩む関係業界団体が6月に全国組織を立ち上げるという。被害額の実態調査や青少年の意識調査をしたり、防止対策のノウハウを共有して被害の根絶を図るという。趣旨は大いに結構だが、組織が出来上がった後、被害額の実態調査や青少年の意識調査は行えるだろうが、防止対策のノウハウを共有するということでは、どうだろうか。
監視カメラや万引き防止装置などの業者や書店、ドラッグストア、CD・ビデオレンタルショップ、家電量販店、自動車用品販売店、ホームセンター、コンビニエンスストア、警備業界など最終的には30団体の参加を目指すという。しかし、これらのうちで本当に万引き防止対策に熱心に取り組み、かつ具体的に効果的な対策を行っている団体、あるいは店舗が、果たしてどれ程あるのだろうか。
たしかに一部の団体では防止対策委員会を設けて勉強しているところもあるが、その勉強成果を加盟店に具体的に指導し、それを受けて店舗が日々、それを実践しているかといえば「?」だろう。そういう店舗があったら、今すぐにでも見に行きたいと思う。
過去、10数年、店舗セキュリティを研究し、幾多の店舗を見て歩いてきているが、いくら監視カメラを取付けようが、万引き防止装置を取付けようが、「効果的な設置、効果的な運用」などとは程遠い。防犯機器だけで万引きが防げるはずがないが、従業員の接客振りは万引き犯を呼び込んでいるなものとしかいえない。その気になれば、いくらでも万引きはできる。万引き防止のためのノウハウを、いったい何処が・誰が持っているのか。それが現実なのだ。共有するなどいうことは言葉の上だけだ。
刑法、刑事訴訟法には、ひととおり目を通しているだろうが、万引き犯を見つけたときの対応は、刑法、刑事訴訟法を読んだだけでは役に立たない。過去の判例をつぶさに勉強しなければならない。ところが万引き事案についての過去の判例を調べるといってもまとまったものは見当たらない。
現在、万引き行為を現認しても、その万引き犯に対して「店の外に出たとき」にしか声を掛けないということが一般的である。ところがスリや置引きに対しては、このような悠長なことをしていない。犯行を現認したら、即逮捕である。「既遂」の事実を現認したら、即逮捕なのである。
万引きは窃盗(刑法第235条:他人の財物を窃取した者は窃盗の罪とし、10年以下の懲役に処する)であり、他人の財物を奪うスリや置引きと同じである。問題は窃盗の既遂時期だが、既遂時期について通説・判例では、「例えば、店頭の商品を懐中に入れたとき」などとしている。つまり、万引きしようとして商品を自分のバッグやポケットなどに隠匿したら窃盗行為、つまり万引きしたことになる。
ところが、店を出たときに声を掛けるというのが一般的であるのは、「精算するつもりだったと言い訳されたらどうしよう」と心配するからである。これは過去の判例で、窃盗罪が「一時使用のうえ返還する意志で商品を窃取したり、毀棄隠匿の意志で窃取する場合には窃盗罪は成立しない」という「不法領得の意志」を心配してのことである。しかし、刑法にも刑事訴訟法にも不法領得についての条文はない。
過去の判例は、きわめて重要なノウハウである。このノウハウの蓄積が各社・各団体にあるのだろうか。また、設置した監視カメラの8割9割がダミーカメラであるとか、設置場所について十分な検証をしないで価格だけでカメラ何台と決める現行のやり方で、本当に役に立つノウハウを持っているのだろうか。
万引き防止に向けて、被害に悩む関係業界団体が全国組織を立ち上げるというのは結構なことだが、全国組織を立ち上げたとき、それに加盟する各社各団体は、「自分たちの行動に間違いが無かったか、万引き対策を真摯に考え実行してきたか」を省みて、その「それをもとに各社各団体が包み隠さず全体の場で披露し、それを元に対策を研究する」ことを行うべきだと思う。どうだろうか。
(by 佐藤 伸)
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