栃木県南河内町薬師寺の運送会社「東武運輸栃木」警備事業本部に数人の男が押し入り現金5億2,400万円を強奪する事件が起きた。 |
【事件の概要】 |
・発生日時:2004年10月17日午後6時20分頃。 |
・発生状況: |
(1)14台ある現金輸送車のうち、最後の輸送車が現金を搬入し、ドライバーが退社した直後で、かつ警備システムが働き始める午後7時までのわずかな時間を狙われた。当時、会社敷地内に入る門は閉まっていたが、建物内に入るドアなど3ヶ所は開いていた。 |
(2)男らは同社北側の出入り口から侵入。警備事業本部の警備員、志村光久さん(53)と大野雅也さん(22)の2人をスタンガンや短銃のようなものを突き付けて脅し、さらに粘着テープで縛り、金庫内に保管していた集金バッグを奪って逃げた。 |
(3)警備員2人は事務室内で伝票の整理が終了し、帰宅の準備をしていたところを襲われた。金庫には鍵がかかっていなかったという。 |
(4)被害額は当初、警備員からの聴き取りなどをもとに2,000万円、集金バッグも10個前後とみられたが、深夜に同社営業担当者らが改めて確認した結果、被害額が増えた。 |
(5)奪われた現金は、同社が栃木県内のスーパーやパチンコ店などから週末に回収した売上金で18日に東京に輸送する予定だった。 |
(6)同社の吉原満・常務取締役は18日に記者会見し、高額の現金が入った集金バッグを中心に盗まれていると説明した。 |
(7)志村さんらによると、男たちは黒い覆面や赤い目出し帽などをかぶっていた。犯人の中には片言の日本語をしゃべった者もいた。 |
(8)事務所に押し入った男らは、まず金庫室の鍵を要求、無施錠とわかると従業員の案内を受けずに金庫室に入り現金を奪っていた。 |
(9)同社には毎日午後4時頃から6時頃にかけて県内のスーパーなど100ヶ所以上から数億円単位の現金が搬入され、敷地の最も奥まった場所にある警備事業本部の金庫室に翌朝まで保管されることになっていた。 |
(10)金庫室周辺は、現金搬入が終わり従業員が帰宅すると、契約する警備会社の自動警備システムに切り替わることになっていた。 |
(11)犯行当日、同社には週末の売上金を含めて普段より多めの現金が保管されていた。また、犯行のあった午後6時以降が最も現金の集まる時間帯だった。 |
【その後の経緯】 |
・盗まれた現金を入れていた錠付きの集金カバン(布製)約20個は同社から東に約500メートル離れた同県上三川町梁の道路脇で下校途中の高校生が見つけて通報した。うち10個前後のカバンの錠はかかったまま手つかずの状態で、中の現金は残されていた。残っていたのは5,000万円以上の模様。 |
・警察は、男らが同事務所と同じ敷地内にある本社オフィスやほかの事務所には侵入していないことなどから、内部事情に詳しい者が警備が最も手薄な時間帯を狙った可能性もあるとの見方を強め、関係者から事情を聴いている。 |
【事例研究】 |
・昔は犯罪の陰に女ありといわれたが、今はそれ以上に「犯罪の陰に内部通報者あり」。そして相変らずの「我が身には起きない」という不遜な思い。この事件も、それを象徴している。 |
・先ず第一に、内部関係者しか知り得ない機密情報である現金の「搬入時間」「保管場所」「自動警備システム」がもれていたとしか考えられない。この思いをさらに強くしているのが、特定の内部関係者しか知り得ない情報であるはずの「犯行当日は週末の売上金を含めて普段より多めの現金が保管され、しかも犯行のあった午後6時以降が最も現金の集まる時間帯」がもれていたと考えられること。犯人が、たまたま襲った時間がそうだった、とは考えられない。 |
・さらにおかしいと思うのは、大量の現金が動く施設でありながら、現場写真を見る限りでは、大型トラックの出入りがあるためなのか、出入口が非常に幅広く、出入口で出入りをチェックする警備小屋もない。しかも監視カメラが設置されていない。いわば、出入りが自由にできる施設である。これでは安全は保証されない。まさに犯罪は「我が身には起きない」と油断している。 |
・襲われた警備員2人は、事務室内で伝票の整理が終了し帰宅の準備をしていたところを襲われたのだが、この2人の安全を見守る警備員がいなかったのは大きなミスです。ダブル・チェックが出来ていない。 |
・犯罪を断ち切るには、まず「内部から」。身近な例をあげれば、各店舗で今、「万引き」が問題になっているが、万引き以上に深刻さを増しているのが従業員による「内引き」、つまり「内部犯行」である。 |
・犯罪を防ぐためには、まずはモラルの向上を図り、同時に十分な監視・管理システムを備え、かつ罰則規定を定めた運用マニュアルが必要です。それを管理・監督する責任者が必要。監視カメラと映像を常時モニタリングすることが大量の現金を取り扱う施設では基本中の基本。内部の人間を犯罪者、犯罪の共犯者に仕立て上げないためにも…。 |
・本件(5億円強奪事件)は、けっして特異な事件ではない。明日は我が身、と思って、今から従業員に対するモラル向上対策、出入りについての十分なチェック体制、監視カメラや人感センサーの設置、それにダブル・チェック体制を行うことを勧めたい。 |
・ところで、現金輸送車に監視カメラを設置して安全を見張っている車両が、どれ位、あるだろうか。「ドライバーが嫌う」ことを理由に、設置していない割合が多いはず。今こそ、現送車に監視カメラの設置を早急に考えるべきである。 |