「タグ&パック」といえば、“万引き防止&三洋堂書店の加藤社長”と木精(木精)が返ってくるようだ。“タグ”は万引き防止タグであり、“パック”は、それを商品にはじめから封入する・貼付するソースタギングを表している。 |
 加藤社長 |
万引きは、数ある犯罪の中でも、とかく軽く見られてきた。当の店にも警察にも、である。最近は、“万引きを見つけたら警察につき出す”などと書いたステッカーを見かけるようもなったが、これが言行一致であって欲しいと思う。 |
とにかく、万引きが多い。万引きするのは子供だけでない。今月18日には京都府警・木津署の元署長(62)が同府向日市寺戸町小佃のスーパー「サティ」の婦人服売り場で、女性用のコートとスーツ計2点(5万円相当)を万引きし、店内を巡回中の女性保安係員が犯行に気付いて同僚と2人で元署長が店を出たところを呼び止めて取り押さえた。元署長は交通機動隊長や駐車対策課長などを経て97年4月から翌年3月まで木津署長を務めた。00年3月に退職した。 |
埼玉県では、商店などで万引きを繰り返していたとして埼玉県教育委員会は19日、同県和光市立大和中学校の女性教諭(56)を停職6ヶ月の懲戒処分にしたと発表した。教諭は同日付で退職した。教諭は95年2月頃と02年9月頃、同県戸田市内の商店でそれぞれ食料品を約1万円分盗んだほか、03年11月20日には同店などで食料品と衣料品計1万7,000円相当を万引きした。02年と03年の2件は書類送検されたが起訴猶予とされた。 |
2月12日には名古屋市守山区のスーパーで、すしパックなどを万引きした男が約20分後、店の女性警備員が事情を聴かれている交番前を歩いて通りかかったことから強盗容疑で逮捕された。逮捕されたのは名古屋市出身の無職、浅野守容疑者(66)。浅野容疑者は12日午後0時35分頃、守山区森孝東のスーパー「清水屋藤ケ丘店」で日本酒パック2本といなりずし(計2,010円相当)を万引き。目撃した女性警備員(61)が後を追って店外で問いつめると、いなりずしパックを女性の顔に投げつけて逃げた。同店の北約200メートルの守山署森孝交番で、事情を聴かれていた女性の目の前を浅野容疑者が歩いて通り過ぎたため、女性が「あ、あいつ」と指さし、緊急逮捕となった。浅野容疑者は路上生活者で所持金が13円しかなかった。 |
2月9日午後5時10分頃、神戸市中央区下山手通の東急ハンズ三宮店5階通路に設置されたごみ箱の中から、清掃員の女性(66)が黒いテープでグルグル巻きにされた不審物を見つけ、同店従業員(55)が近くの交番に不審物を持参した。生田署は中から電子音が聞こえたことなどから爆発物の可能性もあるとみて、近くの生田神社境内に移して一時保管。県警の爆発物処理隊が凍結処理し、兵庫県芦屋市の海岸に運んで調べたところ、商品に付ける万引防止用の警報タグを粘土で覆ったものと判明した。万引き防止用の警報タグは縦約2センチ、横約6センチ、厚さ約0.8センチの板状で、タグが付いたまま商品を売り場の一定の範囲から持ち出そうとしたり、商品から無理に取り外したりすると「ピッ、ピッ」という電子音が鳴る。生田署は万引の発覚を免れるため、何者かがタグを粘土で覆って音を消し、商品を持ち出すなどした後、ごみ箱に投棄した可能性が大きいとみている。 |
2月21日午後7時頃、福岡県久山町の複合商業施設「トリアス久山」内の「生鮮市場」の売り場で、男が催涙スプレーを噴射、警備員や店内の客計15人が目やのどの痛みを訴え、救急車で病院に運ばれた。食品売り場にいた男が万引きをしているように見えたため、男性警備員(57)が約10分間、様子をうかがって後ろについて歩いていたところ、突然、警備員にスプレーを噴射して逃走した。男は追跡してきた警備員に店の出入り口付近で再び数回噴射した。近くにいた男性5人、女性9人の客も巻き添えになった。 |
万引きをめぐっては、とにかく、とんでもない事が起きる。昨年1月に川崎市で万引きした少年が警察が署に連行される途中、踏切で警官をまこうとして電車に轢かれて死亡したが、このことに対して警察に通報した店に非難が集中し、それに耐え切れずに6月に閉店に追い込まれた古書店があった。おかしな風が吹いたのだった。 |
万引き防止を個人でも仲間を集めてグループでアピールしようとしても“蟷螂の斧”の悲哀を感じてしまう。セキュリティ研究会を主宰していたときに、万引きをはじめ店舗セキュリティについて、こうあるべきだとセミナーや勉強会でアピールしてきたが、まさに蟷螂の斧だった。 |
万引き防止を訴えるために01年10月に名古屋市に本店がある三洋堂書店の加藤和裕社長が、結成した「タグ&パック」は、書店だけでなく取次店、出版社などにも幅広く呼びかけてきた。とくに、万引きの温床と言われる新古書店対策を大きなテーマとしてきた。 |
これは新古書店のあり方が換金目的でのコミック本大量万引きを引き起こしている現実を踏まえたもので、コミック本の大手出版社に「コミック本に防犯タグを付けて欲しい」「コミック本をパック済みで出荷して欲しい」と要請したり、最近では新古書店が安易に盗品換金出来なくなるようにと古物営業法の改正を訴えている。これについて、反響はどうだったか…。冷ややかだったのではないだろうか。 |
その加藤社長が、このほど「タグ&パック」を解消し、3年間の期間限定(07年3月31日まで)で「日本書店万引き問題協議会」設立する構想を明らかにし、日書連(日本書店商業組合連合会)の萬田貴久会長に会長職への就任を依頼した。良い結果を期待したいと思う。萬田氏に会長職を要請したのは、古物営業法という法律を改正に取り組むためには、日本の書店全体の意見を代表できる唯一正当な組織である日書連が主体的に取り組むことが不可欠であるという思いからである。 |
日書連としては、極めて大きな問題を投げつけられたわけだが、問題が大きいだけに真正面から取り組む使命がある。しかし、どうだろうか。遠慮なくいえば、事務局段階で「保留」か、最悪「お蔵入り」になってしまうのではあるまいか。受ける気概があれば良いのだが。 |
加藤社長が訴えている古物営業法改正の要点は、(1)古物営業法施行規則の改正/本人確認義務、台帳記載義務免除小額取引限度額1万円の大幅引き下げを実現する。本人確認義務、台帳記載義務免除小額取引から青少年を除外する。(2)各都道府県青少年育成条例の古物取引制限の書籍雑誌除外規程を削除する。(3)同条例の「保護者の同意」を、現状の書面で足りるとせず、電話確認等の実効性あるものに厳格化するーというものである。 |
日本書店万引き問題協議会の活動目標として、(1)行政・政党・他団体との折衝を行い古物営業法改正を働きかける、(2)超党派の国会議員による「青少年万引き防止議員連盟」(仮称)を立ち上げる、(3)マスコミへプレスリリース、情報提供を行い、活動を広くアピールする、(4)機関紙、ビデオを定期発行する、(5)ホームページを開設し定期更新する、(6)講演、セミナーに講師を派遣する、(7)一般紙誌、業界専門紙へ出稿する、(7)その他、協議会獲得目標実現のために必要な活動に取り組むーことを掲げている。 |
どれも“なるほど”だといえるが、組織人にとっては難題だと思う。私自身の経験でいえば、これが行えるような気概を持った人が、どれほどいるだろうか。私自身、セミナーや勉強会を計画し講師をお願いしたとき、“地位は必ずしも人を作らず”を実感してきた。 |
ある人にとっては“たかが万引き”かも知れないが、“万引きは諸悪の元、ドロボーの始まり”である。人間教育を考えてしまう大きな問題を含んでいる。その前に社員・店員教育、営業マン教育の重大性を考えてしまう問題である。 |
店舗で本当に万引きを減らすための社員・店員教育をしているだろうか。万引き防止のためにいって監視カメラや万引き防止装置などを販売している営業マンに、それを販売する理念があるだろうか。教育の重大性・必要性を感じて営業マン教育を行っているメーカー・販売会社が日本にあるだろうか。みなが三洋堂書店の加藤社長になれば結構だが、これは有り得ない。ただ、近づく努力をして欲しいと祈るような思いである。日本書店万引き問題協議会がスタートできるか日書連の動向を注視したい。断ったとしたら、店舗にしてもメーカー・販売会社にしてもマスコミにしても万引き万引きと時々騒ぎ立てるが、腹の底では“たかが万引き”と軽視している証しである。日書連としては迷惑なことだろうが、切実に万引きに困り果てている会員のことを考えたら、逃げるわけには行かないだろう。 |
(ウェリカジャパン営業本部長 佐藤 伸) |