◇マーケティングとは |
犯罪の多発でセキュリティ産業が儲かると関心が集まっている。たしかにセキュリティ市場の裾野はぐ~んとひろくなっている。市場環境としては追風状態にあり、業績を上げる会社が多くなっている。その一方で、代わり映えしない商品群と価格低迷で四苦八苦している会社もある。日本のセキュリティ市場が有望だとみて、新規に進出を狙ったり、さらに売上を上げようと躍起になって、筆者に協力を求めている外国企業が5本の指以上もある。 |
日本の会社、外国の企会社と接していて、非常に気になるのは「市場ニーズ」を掴むことに不熱心であるということだ。いま業績を上げている会社は、はっきり言えば僥倖の結果であるにすぎない。いつの日か、落陽を迎えにだろう。なぜなら、ほとんどの会社が“忙しい忙しい”と言いながら、次の手を打つための市場ニーズを掴む努力を怠っているからである。 |
マーケティングという言葉がある。会社人間なら誰もが知っている言葉だと思う。マーケティングとは、Market:市場に、ing:働きかける、という2つの言葉を組み合わせたもので、市場創造活動とか市場活動という意味である。これを正しく理解して市場創造活動を行っているセキュリティ会社がどれほどあるだろうか。 |
いま業績を上げている会社があるが、市場創造活動を行ってきた成果だといえる会社がどれほどあるだろうか。メーカーに、“市場が求める商品を作ってきたか”と問いたい。販売会社に、“市場が求めるモノを探し商品選びを行い売りの仕組みを考えて努力してきたか”と問いたい。 |
監視カメラがある。いま売れ筋の一つである。売れ筋である故に、売るための工夫、努力を怠っていないか。売れているのは、欲しい人がいるから売れているに過ぎない。売れているために、市場が本当に求めている条件を知らない。監視カメラのメーカーに“お宅の商品は何処で買えるか”と問いたい。販売会社に“求めているお客に欲しいモノは当社で売っているとアピールしてきたか”と問いたい。 |
◇市場創造活動とブランド・イメージ |
ここまで「商品」と表現してきたが、市場にあるほとんどは、物理的なモノに過ぎない「製品」でしかない。商品とは、製品を売り買いの対象とするための市場創造活動があってころ成り立つのである。製品を売り買いの対象とするためには価格や、製品があることの告知、また物流や販売拠点、サービスなどを整備することが必要である。 |
市場を想像する時、ブランドこそ最も大事である。ブランドは、商品の“ふるさと”である。商品にとってブランド・イメージはなにより大事である。 |
あえて言おう。松下通信工業イコール監視カメラの雄のイメージだったが、同社はパナソニック モバイル コミュニケーションズとなり、監視カメラは姿を消し携帯電話が主力の会社となっている。松下電器産業のホームページからでも同社の監視カメラを探し出すのは至難の技である。外人は、松下といわずパナソニックというが、この言葉でホームページを開いても同じである。監視カメラのトップシェアを誇っているが、これではそれもいつまで続くかと思ってしまう。 |
韓国のサムスン(Samsung)もそうだ。親会社と子会社の2社がそれぞれ別のルートで日本に出てきているが、ブランド・イメージは確立されていない。親会社は一昨年、総代理店を変更したが、それが徹底で出来ていない。子会社の総代理店はサムスン子会社としてのブランド力を作るより自社の名前を売り出し、そのためにサムスンというブランド力を活かしきれていない。 |
ブランド・イメージが商品・価格・販売拠点・商品開発力・サービスなどに結びついてこそ、会社は生き続けるのである。ブランド・イメージを大事にしながら、その一つ一つを高める努力を行っているだろうか。 |
◇商品開発は市場ニーズを掴んでこそ |
メーカーは「商品開発」と口を開けばいうが、実際にはどうだろうか。商品開発力こそ、市場ニーズがいかに把握出来ているかという証明であるが、このことに胸を張れるメーカーがどれほどあるだろうか。 |
いまデジタルレコーダー(DVR)が監視カメラシステムの中核装置となって最大の売れ筋となっている。それこそ様々な会社から売り出され、あっという間に乱売合戦となってしまい、あまり利を生まなくなってしまった。その乱売(値引)合戦から抜け出そうと高スペック競争が始まっているが、高スペック競争では乱売(値引)合戦から抜け出すことなど不可能である。ごく一部のお客を除いて多くのお客は、そのようなことを求めていないからである。 |
いま万引きが社会的問題化しており、店舗が困っているのは万引きだけと思われているが、店舗が困っているのは万引きだけでない。内引きと言われる従業員による商品持ち出し、キャッシャーによる現金抜き取り・商品不正持ち出しである。店舗関係者は、内引きについては、自社の恥を晒すことになるので外部には口が固いが、万引き以上に深刻に悩んでいる。 |
◇万引きだけではない店舗の悩み |
キャッシャーの不正を監視するために、10数年も前から欧米ではPOSレジ・監視カメラ・タイムラプスビデオ(VTR)を組み合わせたシステムが広く使われてきている。いまVTRがDVRに置き換わり始めている。ところが日本では、いまだに使用例がない。数年前まではシステムを売り込もうとしても、“ウチの店員は真面目、不正などしない”と店舗のほうで聞く耳を持たなかった。ところが現在は違う。聞く側に相応の知識・情報があれば素直に話してくれるし相談もしてくる。 |
韓国、台湾のDVRメーカーがいま、アメリカ向けに出しているPOSレジ&ATMとのインターフェース機能を持ったDVRを日本に持ち込もうという動きがあるが、それでも日本市場でどれほど受け入れられるか、市場調査を十分にやっているとはいえない。また外国のメーカーが直接、店舗に出向いてキャッシャーの不正を質問しても、どこも正直には答えてくれないと思う。代わりに市場調査を請けてくれる会社に頼んでも、この問題を知っている会社などなく、正しい結果など得られない。 |
市場調査を専門にしている会社があるが、信頼が出来る調査とそうでないことがある。それを見定めることの出来る担当者がセキュリティ会社にいないのではないだろうか。かなり以前、世界にその名を知られた大手メーカーがピラミッド型をイメージしたデザインの監視カメラを作り、ある市場調査会社に“どこのルートに売ったらよいか”“どれ位売れるか”などの調査を依頼した。結果は、担当者の期待を裏切るもので、筆者はぼやかれた思い出がある。売り先の相談に乗り、宣伝のキャラクターに誰某を使ったら…とアドバイスしたが、担当者は賛成したが、上が乗ってこなかったという。結局、そのピラミッド型カメラは市場ルートに乗ることなく、担当者も海外に出されてしまった。 |
◇風が吹けば桶屋が儲かる環境下にあるが… |
風が吹けば桶屋が儲かるではないが、いまのセキュリティ産業はメーカーや販売会社が何もしなくてもお客が向うからやってくる環境下にあるが、市場創造動、つまりマーケティングを怠れば、必ず市場からレッド・カードを切られてしまう。超大手といえども例外ではない。心して市場創造活動に取り組んでもらいたいものである。その第一歩がPOSレジ&ATMのインタフェース機能搭載のDVRだと思うが、どうだろうか。 |
(佐藤 伸) |