このところ“万引き防止”をめぐって様々な動きがある。きっかけは今年1月に川崎市で万引きした少年が警察官によって署に連行される途中、踏切で警官をまこうとして電車に轢かれて死亡したが、このことに対して警察に通報した新古書店に非難が集中し、それに耐え切れずに6月に閉店に追い込まれた新古書店があった。この事件が大きく報じられ、万引き問題に火がついた。また万引きではないが、8月31日には横浜市西区戸部本町のコンビニ店が強盗の多発を理由に「従業員の安全を守る自信がない」として閉店したことも大きく報じられ、これも万引き問題に油を注ぐ一つのきっかけになったことは否めない。川崎のケースでみられたような偽善家はいただけないが、万引きが広く社会から注目されることはよいことである。 |
横浜市は来年1年間を通じて万引き防止活動を展開することにしており、12月14日に万引き防止横浜モデル協議会と横浜市が主催して「STOP the 万引き 横浜モデル シンポジウム」を開催した。万引き防止横浜モデル協議会の会長は出版社や書店などでつくる出版文化産業振興財団(略称:JPIC)の濱田博信理事で、副会長は同じくJPICの松信裕理事、横浜市青少年指導員連絡協議会の松本保夫会長、横浜市PTA連絡協議会の姉崎昭義副会長。なお、中田宏横浜市長が名誉会長。 |
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12月25日には東京都が書店、テレビゲーム、CD、コンビニ店などの業界団体、警視庁、都教育庁など「官」を含む20団体を集めて「万引防止協議会」を開催した。協議会は、子供が万引きを繰り返すうちに規範意識がなくなり、より重大な犯罪に手を染める傾向がみられるため、具体策などの検討の場として設置されたものである。 |
20団体は次のとおりである。東京都書店商業組合、リサイクルブックストア協議会、東京都古書籍商業協同組合、日本レコード商業組合、日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合、日本テレビゲーム商業組合、日本フランチャイズチェーン協会、日本チェーンドラッグストア協会、東京都商店街連合会、出版文化産業振興財団、東京都警備業協会、日本出版インフラセンター、日本EAS機器協議会、東京私立中学高等学校協会、東京都公立中学校PTA協議会、東京都少年補導員連絡協議会、弁護士会、警視庁生活安全部(少年育成課)、東京都知事本部企画調整部(治安対策担当)、東京都教育庁指導部。 |
議長には弁護士の猪狩俊郎が就き、現状や今後の取り組みなどについて意見交換したが、冒頭、竹花豊副知事が「これまで、万引きについて社会全体が取り組んできたとは言いがたい。関係者が一堂に会し、幅広い論議をすることが必要」と挨拶した。警視庁からは、昨年の万引き検挙者6,300人のうち、3分の1が少年であることが報告され、近年、万引きが集団化、巧妙化するケースも示された。 |
引き続いて都書籍店商業組合が今月から来年3月まで実施している「万引き防止キャンペーン」について報告した。フリートークでは、各業界団体などがそれぞれの立場で意見を述べ、万引き被害が経営を圧迫している実情も明らかになった。協議会は04年2月にシンポジウムを開くなど、街ぐるみ、業界ぐるみで万引き防止に取り組むための機運を盛り上げていくことを決めた。 |
万引き、また万引き防止について様々な関係者が一緒になって考えるのは非常によいことである。しかし、永いこと店舗の防犯について研究してきた筆者には手放しで喜べない思いがする。メンバーが悪いというのではない。このメンバーの手元に、諸々の万引きについての本当のデータがあるのだろうか。手元に何一つ役立つデータがないまま、このようなメンバーで、果たして万引きを減らす対策を考えつくことが出来るのだろうか。メンバーが悪いというのではない。これらメンバーの手に、諸々の万引きについての本当のデータがないことを憂えているのである。 |
万引きがどれ位起きているかについて知る手掛かりの一つとして、警察まとめの万引き認知件数があることはある。しかし、警察の万引き認知件数を実態であるとまともに信じている店舗の防犯担当者は一人もいないだろう。警察官とて、そう思っているだろう。店舗の防犯関係者は、経験から実際の万引き認知件数は、警察まとめの数字の10倍~20倍あるとみるのが正しいといわれている。しかし、素人はどうだろうか。会議で1ヶ月の万引き認知件数は××、1年間の認知件数は××などと説明されると、それが実数だと信じてしまうに違いない。 |
万引きの手口を承知しているだろうか。また、万引き犯を見つけて事務所に連れて行くまでの気の使い方や事務所での実際のやり取りを知っているだろうか。テレビでこのあたりのことを放映することがあるが、それが100%真実と信じているのは、これも素人ぐらいに違いない。 |
万引きを監視する装置として監視カメラやEAS(電子式商品監視システム/万引き防止装置)などがあるが、これについて正しく知っている人がいるだろうか。おかしな話だが、これらの装置を売り込んでいる会社の人間にしても、現実問題として正しい使い方を知らなすぎる。万引き防止対策として監視カメラを取り付ければよいとか、万引き防止装置を設置すればよいといったもっともらしい意見が出され、そうだそうだということになり、監視カメラや万引き防止装置を設置して事成れりと思われては、かえって危ない。 |
また、これら装置の効果のほどは誰も知らない。費用対効果を調べたデータが日本には存在していないからである。これでは監視カメラを設置すればよい万引き防止装置を設置すればよいなどとは無責任にはいえない。 |
また、言いたい。メンバーはこれまでの様々に生きた人生の時間において万引きについて、どれほどの関心を寄せ問題を考えてきただろうか。プロが納得する諸データを揃え、常日頃問題解決に頭を痛めている関係者に一堂に会してもらって対策を話し合ってもらうか、アメリカにあるようなデータを揃えるための調査を行うための会議を開くのが先決だと思う。(佐藤 伸) |