最近、よく目にするようになった4文字に「体感治安」がある。何事にも大雑把な日本人が、“数字で、データで示せ、数字で表せないものは信用できない”という特性を持っている。日本の安全は、かって世界的にも信頼され“安全神話”という言葉さえ生まれたが、バブル経済崩壊と道を同じくして安全神話は崩壊してしまった。日本で犯罪がどれほど多く起きているかは、警察が発表する各種犯罪データや検挙率などによって知ることができる。しかし、それはあくまでもデータにすぎず、一般の国民が、今の日本の、あるいは自分の周りの治安について、どのように感じているのかという「不安感」は犯罪データからは知ることはできない。国民一人一人が主観的に、安全について肌でどのように感じているかを表すのが体感治安である。 |
空き巣に入られた家人や身近にいた人は、日常生活の場が知らない間に犯罪現場になったことで、言葉にならない気味悪さ、不安感を持つようになる。歩いていて、持っていたバッグをいきなり奪われるひったくりにあった人も精神的ダメージが大きい。最近になって、日本の治安を回復し、守るためには、一般市民が感じている「体感治安」に大きな影響を与える犯罪、それも多くは軽微な犯罪に対して、どう対処し、撲滅していくかが大きなポイントとなると思われるようになってきた。 |
たしかに、防犯対策には、なによりも大事なことは、国民の「不安感」をキチンと認識し、それにマッチした防犯対策を行うことが何よりも大事である。このことからすれば、「スーパー防犯灯」や「特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律」の成立は、国民の不安感を和らげるのに効果があるといってよい。 |
(財)社会安全研究財団が平成14年3月に実施した「犯罪に対する不安感などに関する世論調査」によると、「犯罪被害に遭いそうな不安を感じるか」という問に対して「不安を感じる」と答えた人が41.4%で、5年前に比べて約15%も増加していた。 「不安を感じる犯罪」については、空き巣がもっとも高く、続いて通り魔的犯罪、すり、ひったくり、車上ねらい、自転車窃盗の順だった。身近なところで発生する犯罪に不安を感じている。地域別では、「不安を感じる」と答えた人の割合は、東京が53.5%ともっとも高い。 「不安を感じる場所」は、繁華街と答えた人が29.8%ともっとも高く、次いで駐車場19.4%、駅18.7%、通勤に使う道14.1%という順だった。 |
体感治安では、身近なところに神経が払われているが、体感治安を良いほうに高めるためには、周囲の環境を良くすることが大事であり、それを行うためには向う三軒両隣りという隣近所とのコミュニケーション、つまり地域社会とのそれが非常に大事である。住宅地域では、いまもある程度はコミュニケーションが図られているが、問題はマンション、団地である。お互いが近隣と接触する機会がなく、また近隣と接触することを拒否する傾向が強い。これがマンション、団地において犯罪が増える原因にもなっている。向う三軒両隣の監視の目がないために、犯罪抑止力が低下しているのである。 |
広島県警各警察署は、ホームページで区域内の犯罪情報を流しているが、体感治安をプラスに導くのに効果があるに違いない。例えば、広島中央署は「交番速報!吉島で車上ねらいが連続発生」「(江波町交番)自転車盗を防止しよう」「(十日市交番)あなたの車がねらわれている」「本通・胡町で女スリ」と流し、可部署では「(三入交番)にせものに注意」「(豊平・吉坂駐在所)悪質訪問販売に注意」「背後に迫る黒い影・ちかん」に注意を促している。福山西署では「大型スーパー、コンビニで各種事件が発生中」、福山東署では「女子中高生を狙う甘い言葉」「連続自動販売機荒し」「ちかん注意報発令」といった情報を流している。インターネットだけでなく、地域住民にも言葉で注意している。 |
このところ関心が高まっている犯罪に「万引き」があるが、じつは万引きを目撃したという人は非常に多い。目撃したという人に、万引きした(している)人に対して注意をしたかどうか聞いてみると、“何をされるか怖いので注意はしなかった”という返事をだいたい聞く。そして“あの店は万引き犯がいて怖い”というマイナスの体感治安を持ってしまう。 |
昨年から「ブロークン・ウインドウ(破れ窓)理論」という言葉を耳にすることが多くなったが、この理論は、アメリカのルトガーズ大学(ニュージャージー州)のジョージ・ケリング博士が提唱し、これを実践して治安回復に成功したのがジュリアーニ前ニューヨーク市長だった。たった1枚の割られたガラス窓を対処することで犯罪の傾向は大きく変わるという理論である。窓ガラスを割ったり、ビルの壁に落書きをするといった軽微な犯罪でも、それを見逃さない警察がいれば、犯罪は確実に減るという理論は、ニューヨーク市で理論の正しいことが証明された。これが日本にも昨年に輸入されたが、日本には「体感治安」がある。基本は同じである。 |