最高裁判所は13日、長崎県諫早湾の干拓事業をめぐり排水門の開門を命じた確定判決を無効とするよう国が求めたことについて、国の訴えを認めた2審の判決を取り消し、福岡高等裁判所で審理をやり直すよう命じた。判決では開門の是非には触れず、司法での争いが続くことになった。
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諫早湾の干拓事業では、平成9年に国が堤防を閉めきったあと、漁業者が起こした裁判で開門を命じる判決が確定した一方、農業者が起こした別の裁判では開門を禁止する決定や判決が出された。
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司法の判断が相反するなか、国は、開門を命じた確定判決の効力をなくすよう求める裁判を起こし、昨年7月、2審の福岡高等裁判所は、「漁業者の漁業権はすでに消滅している」として、国の訴えを認め、確定判決を事実上無効とする判決を出し、漁業者側が上告していた。
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これについて、最高裁判所第2小法廷の菅野博之裁判長は判決で、「漁業権が一度消滅しても開門を求める権利は認められると理解すべきだ」などと指摘して国の訴えを認めた2審の判決を取り消し、福岡高裁で審理をやり直すよう命じた。判決では開門の是非には触れず、司法での争いが続くことになった。
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開門の是非をめぐって司法の判断がねじれた状況になったのは、開門を求める漁業者と、開門に反対する農業者が、それぞれ国相手に裁判を起こし、いずれも勝訴したため。平成9年に堤防が閉めきられる直前から事業に反対する市民や漁業者が国を相手に事業の差し止めなどを求めていくつもの裁判を起こした。
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このうち、漁業者らが開門を求めた裁判で、平成22年に福岡高裁は1審に続いて堤防を閉めきったことと漁業被害との因果関係を認め、3年以内に開門するよう国に命じた。この判決は当時の民主党政権が上告せずに確定し、国に開門の義務が生じた。
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これに対し、今度は、開門に反対する農業者らが国を相手に開門を禁止するよう仮処分を申し立てた。平成25年、長崎地裁は「開門すれば干拓地の農業に被害が出る」などと農業者側の訴えを認め国に開門を禁止する決定を出した。
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これにより、国は「開門しなければならない」という義務と、「開門してはならない」という義務の相反する2つの義務を負うことになった。開門を求める漁業者と、開門に反対する農業者のそれぞれが、いずれも国相手に勝訴したのである。
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国は、相反する義務を負ったことで、3年以内に義務づけられていた開門を先送りにした。
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開門してもしなくても、どちらかの義務に違反して制裁金が課せられる状況になり、国は、開門の義務に従わず、制裁金を支払った。
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こうした状況を打開するため国が開門を命じられた平成22年の確定判決を事実上、無効にするよう求めたのが今回の裁判。
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そのうえで国は、一昨年、開門しない方針を明確にした。
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国は開門しないことを前提に漁場の回復を目指す100億円規模の基金案を示したが和解協議は決裂した。
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昨年7月、福岡高裁は「漁業者が開門を求める前提となる漁業権はすでに消滅している」として、確定判決を事実上、無効にする判決を出し、漁業者側が上告していた。
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